子どものころ、映画に出てくる執事型のAIに憧れていました。名前を呼べば返事をして、こちらが言わなくても状況を把握して、勝手に段取りを進めてくれるあれです。あんなものが手元にあったら、と何度も思っていました。
それを、実際に作りました。ClaudeとMCPを組み合わせて、21人分のAIスタッフが動く組織をひとりで運用しています。結論から言うと、想像していたことの大半は本当にできました。ただ、まったく想像していなかったところでつまずきました。この記事は、その記録です。
結局のところ、思っていたことの9割はできた
「あんなAIは映画の中だけ」という前提は、もう成り立たなくなっています。
依頼を投げると、担当が決まり、手順書に沿って作業が進み、成果物が上がってくる。私がやるのは中身を確認して承認するかどうかの判断だけ。この流れは実際に毎日回っています。技術的にできないことより、決めていなかったことのほうがはるかに問題になりました。
以下、何を作ったのかと、どこで期待が裏切られたのかを順に書きます。
実際に作ったもの
中身は、番号のついたAIスタッフと、手順書と、承認フローの三点セットです。
- 21人のAIスタッフ: 記事制作、見積作成、広報など役割ごとに分かれていて、依頼内容から担当が自動で決まる
- 手順書(スキル): 各業務の進め方を文書化してあり、作業のたびに読み込まれる
- 承認フロー: L1は自動実行、L2は承認後に使用、L3は人間のみ。外部に出るものはすべてL2以上
- 3Dのオフィス画面: 誰がいま何をしているかが見える。実用性より、動いている実感のために作りました
この構成をどう組んだかはAI組織の作り方に手順としてまとめてあります。ツール同士をつなぐ仕組みそのものについてはMCPとAPIの違いのほうが分かりやすいはずです。
SF通りだったこと
一番驚いたのは、「察してくれる」部分が想像以上に実現していたことです。
「記事を書いて」とだけ伝えれば、既存記事と重複しないテーマを選び、構成を組み、本文を書き、CMSに下書きとして登録するところまで進みます。途中で私が指示を足す必要はほとんどありません。映画の中で主人公が雑に話しかけて話が通じる、あの感じは確かにあります。
夜のうちに作業が終わっていて、朝には成果物が並んでいる、という体験も含めて、ここは期待どおりでした。
SF通りにいかなかったこと
裏切られたのは、性能ではなく運用の部分でした。3つあります。
1. 放っておくと、似た記事を何本も書いてくる
指示がなければ、AIは重複を避けません。結果として、ブランディング系、AI検索対策系、サイトリニューアル系で、主題の近い記事が並んで立ってしまいました。
検索エンジンから見ると、これは自社の記事同士で評価を食い合っている状態です。1本ずつ見れば悪くない記事なのに、全体で見ると損をしている。映画のAIは、こういう「全体の整合性」を勝手に見てくれる前提で描かれていますが、実際には見る範囲を人が決めないと見てくれません。
2. 作れるようになった瞬間、読まれない問題が前に出た
記事は面白いように増えました。ところが流入は増えませんでした。
理由は単純で、SNSでの発信が止まっていたからです。書く速度が上がっても、届ける経路がなければ何も起きない。ボトルネックが制作から配信に移動しただけでした。今にして思えば当たり前ですが、作れるようになった高揚感のなかでは見えていませんでした。
3. 承認する人間が、律速になる
外部に出るものは必ず人が承認する設計にしています。この判断自体は間違っていなかったと思っています。ただ、生成が速いぶん、承認待ちが溜まります。
しかも溜まった下書きのなかには、本業から距離のあるテーマも混ざっていました。チラシ制作の費用相場のような、書けるけれど自社が語る理由の薄い記事です。承認しない、という判断もそれなりに手間でした。任せる範囲を広げるほど、確認の負荷は減るどころか増えます。
細かいつまずきもありました。未公開の記事に内部リンクを貼ってしまい、公開順序を間違えると404になる状態が生まれたこと。存在しないタグ名を渡してもエラーにならず、静かに誤登録されていたこと。自動化した領域ほど、失敗が静かに進みます。
作る前に決めておけばよかったこと
技術より先に決めるべきだったのは、次の3つでした。
- どの工程を人が承認するか: 権限の線引きを後から変えるのは面倒です。税務や法務のように資格が絡む領域は、最初から人間のみに固定しておくのが安全でした。
- 何を作らせないか: 作れる範囲は広いので、扱わないテーマを先に決めないと際限なく広がります。判断の軸はAIに任せる業務の線引きに整理しています。
- 成果物をどこに届けるか: 作る仕組みと同時に、配信の経路を用意しておくべきでした。
AIに仕事を任せるという行為そのものの仕組みはAIエージェントの解説で整理していますが、実際に運用してみると、難しいのは技術ではなく設計のほうだと感じます。
これから作りたいもの
次に手をつけたいのは、数字を見て自分で判断する仕組みです。
いまはどの記事が読まれているかを私が見て、次の打ち手を決めています。ここを、流入や検索順位のデータをもとにAI側が「あと少しで上位に届く記事」を見つけて提案するところまで持っていきたい。映画のAIが強いのは、指示を実行する能力より、状況を見て先に口を出してくる能力のほうです。
そこに近づけるための道具立ては、すでに手元にあります。Claudeの応用的な使い方で触れたような使い方を積み重ねていけば、届く範囲だと思っています。
憧れていたものは、思っていたよりずっと簡単に作れました。難しいのは、作ったあとにどう付き合うかのほうでした。



